川崎消防署 令和7年版資料に見る今後の課題と取り組み

# 川崎消防署令和7年版資料に見る今後の課題と取り組み

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川崎消防署 令和7年版資料に見る今後の課題と取り組み

統計データと災害対応の現状分析報告書

統計データと災害対応の現状分析報告書

### 目次
1. 現状の統計データと災害対応の傾向
2. 都市構造の変化への対応
3. 高齢化社会への対応と救急需要の増加
4. 気候変動がもたらす影響と対策
5. ICT技術の導入と消防のDX
6. 消防団と地域連携の強化
7. 今後の展望と提言

### エグゼクティブサマリー

川崎市消防局の令和7年版資料を基に、現在の消防・救急業務における主要な課題と取り組みを分析しました。令和6年の火災件数は398件と過去10年で最多を記録し、救急出動件数も89,114件と過去最多を更新しています。高齢化の進展により、65歳以上の高齢者が救急搬送者の57.7%を占めており、消防・救急サービスの需要構造が大きく変化しています。

本レポートでは、これらの統計データを基に、都市構造の変化、高齢化社会への対応、気候変動対策、ICT技術の導入、消防団の強化という5つの主要課題について詳細に分析し、川崎市消防局が実施している具体的な取り組みと今後の展望を示します。

🔥 現状統計データ

398
火災件数(令和6年)
過去10年で最多
建物火災282件(全体の7割)
電気機器・たばこ・こんろが主要原因
14
火災による死者数
前年より11人増加
逃げ遅れが7人(最多要因)
高齢者が半数を占める
89,114
救急出動件数
1日平均243.5件
5分54秒に1回の割合
過去最多を更新
72,446
搬送人員
市民21.4人に1人
過去最多を更新
前年から1.7%増加
759
熱中症搬送者数
令和6年5月〜9月
過去最多を更新
気候変動の影響が顕著
108,784
119番通報件数
前年より1,711件増加
通信指令体制の強化が課題
多様化する災害への対応

1. 現状の統計データと災害対応の傾向

### 火災発生状況の分析

令和6年(2024年)の川崎市内の火災件数は398件と、過去10年間で最多を記録しました。この数字は年間300~400件台で推移してきた過去の傾向を上回る深刻な状況を示しています。火災の内訳を見ると、建物火災が282件と全体の約7割を占めており、市民の生活に直接的な影響を与える住宅や商業施設での火災が多発していることが分かります。

火災原因の分析では、「電気機器」が最多となっており、現代社会における電化製品の普及と老朽化が背景にあると考えられます。次いで「たばこ」と「こんろ(ガスこんろなど)」が上位を占めており、日常生活での火の取扱いに関する注意喚起の重要性が浮き彫りになっています。

特に注目すべきは、前年(令和5年)と比較した変化です。電気機器・たばこによる火災は減少した一方で、こんろによる火災は増加しており、コロナ禍以降の在宅時間増加や調理頻度の変化が影響している可能性があります。

### 火災による人的被害の深刻化

令和6年には火災による死者が14人と、前年より11人も大幅に増加しました。この急激な増加は川崎市消防局にとって重大な課題となっています。死者の要因分析では、「逃げ遅れ」が最も多く7人を占めており、早期発見・早期避難の重要性が改めて確認されました。

さらに深刻なのは、高齢者(65歳以上)の犠牲者が全体の半数を占めていることです。高齢者は身体機能の低下により迅速な避難行動が困難な場合が多く、また独居高齢者の増加により発見が遅れるケースも懸念されます。

### 救急需要の急激な増加

救急出動件数も深刻な増加傾向を示しており、令和6年中の救急出場件数は89,114件と過去最多を更新しました。これは前年から約1.7%の増加で、1日平均約243.5件、つまり5分54秒に1回の割合で救急車が出動している計算になります。

搬送人員も72,446人と過去最多を記録し、川崎市民およそ21.4人に1人が年間に救急搬送されたことになります。この数字は市民の健康状態や医療需要の変化を如実に表しており、消防・救急サービスへの負荷が限界に近づいていることを示しています。

### 高齢化による救急需要構造の変化

救急搬送の年齢別分析では、65歳以上の高齢者が57.7%を占めて前年よりさらに増加しています。一方、18~64歳の成人は33.3%(微減)、18歳未満の未成年は合計で約9%程度と、年少層の割合は相対的に小さくなっています。

この傾向は川崎市の人口構造の変化を反映しており、今後も高齢化の進展に伴って救急需要の増大が続くと予想されます。高齢者の救急需要増大により、救急隊の負担や対応力の低下が懸念されるため、適正利用の呼びかけも重要な課題となっています。

### 119番通報の増加と通信指令体制への影響

119番通報の受付状況を見ると、令和6年中の通報件数は108,784件で前年より1,711件増加しました。災害出動全体の増加傾向から、将来的にさらなる通信指令体制の強化も課題となっています。

川崎市消防局では多数の通報に対応するため、指令センターの高度化や他機関との連携強化を進めています。また、近年の災害対応では、新型コロナウイルス等の感染症対応や、大規模風水害への広域応援出動など、多様化する災害への対応力が求められています。

年齢別救急搬送割合の推移
57.7%
65歳以上
33.3%
18-64歳
9%
18歳未満

高齢者の救急需要が年々増加し、全体の約6割を占める状況

⚠️ 主要課題と対策

🏢
都市構造の変化
2. 都市構造の変化への対応

高層建築物の増加と消防戦術の革新

川崎市は都市開発により高層建築物が急速に増加し、都市構造が大きく変化しています。特に中原区の武蔵小杉地区では、高さ60mを超える超高層マンションが林立し、居住人口も大幅に増加しました。

高層階で火災が発生した場合、建物内には送水管や非常用エレベーターが備えられており、消防隊は通常それらを活用して消火活動を行います。しかし、大規模地震時には配管破損やエレベーター故障でそれらが使用できない恐れもあります。

こうした事態に備え、川崎市消防局では革新的な訓練を実施しました。地上からポンプ車で高層階へ放水できるかを検証する訓練で、実際に高さ約76m・20階建ての建物でホースを直線に引き上げる方法と階段沿いに螺旋状に延長する方法を試験しました。

この訓練では、初期火災を鎮圧できる水圧を確保できることが確認されました。直線引き上げは摩擦が少なく水圧が高い反面、螺旋延長はホースの暴れが少なく安全性が高いなど、それぞれの利点・課題が詳細に分析されました。

木造住宅密集地域の防災対策

一方で、川崎市には古くからの木造住宅密集地域も点在しており、ここでは狭隘な道路が多く消防車両の進入が困難なケースがあります。川崎区小田・浅田周辺や幸区幸町周辺は、老朽木造家屋が密集し延焼拡大の危険性が高いため、市が「不燃化対策重点地区」に指定して対策を進めています。

市の被害想定では、例えば小田周辺地区で大震災時に最悪400棟もの建物焼失が想定されており、防災上の課題が極めて大きい地域です。対策として、2016年度に条例を制定し、これら地区で新築される小規模建築物に耐火構造を義務付けました。

加えて、耐火改修や老朽家屋除去への補助制度、延焼を防ぐための防火空地(オープンスペース)の整備支援なども行っています。実際に市の補助を活用して耐火性能を強化した住宅は、令和4年度に小田地区で10件、幸町地区で5件と徐々に成果が出始めています。

産業地帯における特殊災害対応

川崎市は臨海部に大規模な工業地帯(京浜工業地帯)を抱えており、石油化学コンビナートや危険物施設が集積しています。都市インフラや産業構造の複雑化に伴い、石油タンク火災や有害物質漏洩といった特殊災害への対応力も重要です。

川崎市消防局では特別消火隊や大型化学消防車を配備し、大規模災害に備えた訓練を継続しています。また、近年はトンネルや地下街など新たな空間での事故対応も求められており、特殊な資機材の導入や他機関との連携体制強化を図っています。

👴
高齢化社会への対応
3. 高齢化社会への対応と救急需要の増加

高齢化に伴う救急搬送の増加と現場対応力の強化

川崎市では高齢者人口の増加に伴い、救急搬送件数が増加しています。令和5年の救急搬送件数は92,610件で、そのうち65歳以上の高齢者は57.7%を占めています。特に80歳以上の搬送が顕著に増加しており、年々深刻化しています。

高齢者は慢性疾患を抱える割合が高く、少しの体調変化でも救急要請につながりやすい傾向にあります。また、転倒や浴室での溺水事故、熱中症など、家庭内での事故が多いのも特徴です。さらに、要介護や独居の高齢者が増加していることで、迅速な通報や避難行動が困難な事例も増えています。

こうした現状を踏まえ、川崎市消防局では高齢者への対応力強化を図っています。例えば、介護施設職員への応急手当講習を積極的に実施し、施設内での初期対応能力の向上に努めています。令和4年度には延べ6,200人が受講しました。

また、在宅医療や地域包括ケアとの連携も進めており、救急搬送の適正化や再発防止に向けた取組みも行われています。訪問看護師や地域ケアマネージャーとの情報共有体制を整えることで、必要なケースに集中して対応できる体制を構築中です。

さらに、消防局では救急車の到着を待つ間に心肺蘇生などの応急手当を行えるよう、市民への普通救命講習の普及も強化しています。地域の防災訓練や自治体イベントに出向き、救命処置やAED使用法の指導も行っています。

🌡️
気候変動対策
4. 気候変動がもたらす影響と対策

猛暑・豪雨・複合災害への備え

川崎市においても近年、気候変動の影響が顕著になっており、消防行政における重要課題の一つとなっています。特に夏場の熱中症搬送件数は年々増加しており、2024年5月から9月の間だけで759人が搬送され過去最多となりました。

背景には記録的猛暑や都市部のヒートアイランド現象があり、特に高齢者や持病のある方が重症化しやすい傾向にあります。また、台風や集中豪雨による浸水・土砂災害のリスクも増加しており、避難行動の早期化や避難支援体制の強化が求められています。

川崎市消防局では、熱中症対策として市民への啓発活動を強化しており、学校・地域イベント等での熱中症予防講習、消防団による巡回指導なども実施されています。さらに、水害に備えては、排水ポンプ車やボートなどの水防資機材の整備、現地対応訓練を行っています。

また、複合災害(地震と津波、洪水と火災など)に備えるため、ハザードマップと連動した避難訓練を強化し、福祉避難所との連携や要配慮者リストの活用など、防災部局との統合的な取り組みを推進中です。

気候変動は今後も継続的なリスクであるため、行政の垣根を越えた対策と、住民・事業者との協働による防災力の向上が不可欠です。消防の枠を超えたアプローチが期待されています。

💻
ICT技術と消防のDX
5. ICT技術の導入と消防のDX

消防業務におけるICT活用と業務効率化

近年のICT技術の進展により、消防業務にもデジタルトランスフォーメーション(DX)の導入が急速に進められています。川崎市消防局でも、災害対応や日常業務の効率化、情報共有体制の強化を目的に、さまざまなICT施策が推進されています。

その一つが、スマートフォンやタブレットを活用した現場情報の共有です。例えば火災現場や救急現場で撮影した画像・映像を、指令センターや後続部隊とリアルタイムで共有できるようにすることで、迅速な判断と支援が可能になります。

また、消防団や地域団体との情報連携にもICTが活用されており、LINEや専用アプリを通じて火災情報や災害警戒情報を即時配信しています。これにより、現場到着前の状況把握や連携体制の構築が格段に向上しました。

デジタル地図・AIの導入と未来の消防体制

消防車両のカーナビゲーションや災害対策本部で使用される地図システムも、最新のデジタル地図やAI補助機能が導入されています。災害発生時には、被害予測や避難経路の分析をAIが支援し、被害の最小化に貢献することが期待されています。

今後は、ドローンやIoTセンサーの活用による現場情報の自動収集、ロボットによる危険区域での情報探索など、より高度なICT技術の活用も見込まれています。これらは消防隊員の安全確保や活動効率の向上にも大きく寄与します。

さらに、災害時の市民への情報発信手段として、SNSやWeb通知システムの活用も強化されています。スマートフォンを通じた避難指示の即時通知や、応急手当の動画ガイド配信など、市民との双方向的な情報共有が新たな標準になりつつあります。

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消防団と地域連携の強化
6. 消防団と地域連携の強化

災害時に不可欠な地域防災力の要として

大規模災害や火災に対して、行政の消防力だけでは十分に対応しきれない状況も想定される中、地域の消防団や自主防災組織は極めて重要な役割を担っています。川崎市では、地域と共に災害対応力を高めるための取り組みが進められています。

消防団は、市民による非常勤の公的組織であり、火災時の初動対応や水防活動、避難誘導などに従事します。川崎市内には各区ごとに消防団が組織されており、平時からの訓練や防火広報活動を通じて地域の安全を支えています。

地域に根差した訓練・教育の展開

消防団員に対しては、機械操作や放水訓練だけでなく、応急手当、救命講習、無線連絡訓練なども実施されており、災害時に的確に活動できるような人材育成が行われています。また、地域住民との合同訓練も定期的に開催され、顔の見える関係性づくりが進められています。

一方で、団員の高齢化や加入者不足も課題となっており、若年層や女性の入団促進を図るため、PR活動や報奨制度の見直しも進められています。実際、令和4年度からはSNSを活用した広報活動や、市内高校生を対象とした消防団体験プログラムも始まっています。

さらに、自主防災組織(町内会・自治会単位の防災団体)との連携も強化されており、避難所運営訓練や防災イベント、安否確認訓練などにおいて、消防団・消防署・地域住民が連携して実施する体制が整えられています。

これらの取組により、災害発生時における地域の自助・共助機能を高め、市民一人ひとりが「自分の命は自分で守る」意識を持ち、地域ぐるみで防災に取り組む体制づくりが着実に進んでいます。

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産業災害対応
京浜工業地帯の石油化学コンビナートや危険物施設での特殊災害。大型化学消防車や特別消火隊による対応力強化。

🎯 具体的取り組み施策

住宅用火災警報器の普及促進
高齢者宅への無料点検・取替え支援を実施。地域包括支援センターと連携した防火訪問指導により、早期避難体制を強化し、逃げ遅れによる犠牲者の削減を図る。
救急搬送の効率化とDX推進
#7119救急相談窓口の周知、「サポート救急」制度の運用により適正利用を促進。タブレット端末による病院との情報共有システムで現場滞在時間を平均1分短縮。
熱中症対策の強化
196施設に「ちょこっと涼みスポット」を設置。川崎市気候変動情報センターとの連携により予防啓発を実施し、独居高齢者の見守り体制を構築。
消防団員の確保と多様化
学生消防団員認証制度、機能別団員制度の導入。女性・若年層・外国籍住民の参加促進により多様な人材を確保し、地域防災力の向上を図る。
高層建物対応訓練の実施
高さ76mの建物で放水訓練を実施。直線・螺旋ホース延長方法を検証し、都市構造変化に対応した消防戦術を開発。若手隊員中心の研究・訓練を継続。
木造密集地対策の推進
不燃化対策重点地区の指定、耐火建築物への改修補助制度により延焼拡大リスクを軽減。防火空地の整備支援と地域住民との協働による防災まちづくり。
消防団員数の現状と課題
消防団員充足率 78.4%

定員:1,345人 → 実員:1,055人
全8消防団で定員割れが継続中(令和6年4月現在)

7. 今後の展望と提言

### 総合的な防災力向上に向けて

川崎消防署(川崎市消防局)の令和7年版資料を通して浮かび上がった諸課題と取り組みについて、多角的に解説してきました。都市成長と高齢化という二つの大きな潮流の中で、消防は量的需要の増大と質的対応の高度化の双方に応えていかねばなりません。

幸い、最新の統計データや現場の傾向を分析すると、課題に対する具体的なアクションが既に始まっていることがわかります。ICT技術の導入による業務効率化、地域連携の強化による防災力向上、専門人材の確保と育成など、多面的なアプローチが展開されています。

### 市民との協働による安全なまちづくり

今後重要なのは、行政の取り組みと市民の意識向上を両輪として進めることです。住宅用火災警報器の適切な設置・維持、救急車の適正利用、地域防災活動への参加など、市民一人ひとりが防災・防火への意識を高め、行政の施策に協力・理解していくことで、より安全な地域社会が実現するでしょう。

特に高齢化が進む中では、地域コミュニティによる見守り体制づくりや、世代を超えた防災知識の継承も重要です。消防団や自主防災組織の活動を通じて、地域ぐるみで災害に備える文化を醸成していく必要があります。

### 持続可能な消防・救急サービスの実現

限られた資源の中で増大する需要に対応するためには、効率化と質の向上を同時に追求する必要があります。DX推進による業務改革、予防行政の強化による火災・事故の未然防止、適正利用の促進による救急需要の適正化など、様々な取り組みを継続的に推進していくことが求められます。

また、気候変動や都市構造の変化など、新たな課題に対しても柔軟に対応できる体制づくりが重要です。国や県、他自治体との連携を深め、最新の知見や技術を積極的に取り入れながら、「災害に強い川崎」の実現を目指していく必要があります。

本レポートが、その一助として専門家にも信頼される知見とエビデンスを示しつつ、市民の皆様にとってわかりやすい防災情報提供となれば幸いです。共に「災害に強い川崎」を目指して、日頃から備えと連携を深めていきましょう。